朝刊を読んでいたら、「手をこまぬく」という表記に目が留まりました。「こまねく」じゃないの? 誤植かな?——そう思って辞書を引いたら、驚きました。「こまぬく」のほうが、本来の形だったんです。
目次
ポイントを整理すると
- 漢字で書くと「拱く」。腕を胸の前で組み合わせる——腕組みの姿から生まれた言葉で、転じて「何もしないで見ている。傍観する」という意味です
- 広辞苑(第七版)の見出しは「こまぬく」。「こまねく」は近年多く使われる音変化、と説明されています
- いっぽう明鏡国語辞典(第二版)の見出しは「こまねく」。「こまぬく」の転で、現在は「こまねく」が一般的、としています。どちらも正しい形です
4つの資料で、立ち位置が全部違う
今回面白かったのは、資料ごとに”軸足”が違ったことです。
- 広辞苑は、本来形の「こまぬく」を本体に据える
- 明鏡は、今の形の「こまねく」を本体に据える(「こまぬく」は見出しになっていません)
- 記者ハンドブック(第14版)は、拱く→「こまねく」(「こまぬく」とも)と、現代形を主にしつつ本来形も認める
- そして新聞の紙面には、「こまぬく」——本来形を採る媒体もある
本来を守る辞書、現在を映す辞書、実務の目安を示すハンドブック、そして自社のルールで書く新聞。どれかが間違っているのではなく、それぞれの役割で言葉と向き合っているんですね。「辞書は正解表ではない」——引き比べるたびに、そのことを実感します。
現場からひとこと
今回、私は一瞬「誤植かな?」と思いました。でも辞書を引いたら、疑われるべきは紙面ではなく、私の思い込みのほうだった。「見慣れない表記=間違い」ではないんです。むしろ新聞のような媒体で見かけた”あれ?”は、本来の形を守っている表記であることが少なくありません。
校正の仕事でも、これは同じです。ゲラで見慣れない表記に出会ったとき、すぐ赤字にせず、まず辞書を引く。疑う前に、確かめる。その一呼吸が、正しいものを”直してしまう”事故を防いでくれます。
見慣れない言葉は、間違いとは限らない。「あれ?」と思ったら、辞書へ✍️
※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

