「神妙な面持ちで」という表現に出会って、ふと手が止まりました。私はずっと、これを「何か秘密を隠していそうな顔」のようなイメージで受け取っていたんです。辞書を引いてみたら——まったく違いました。でも、勘違いの理由も同時に分かって、面白かったんです。
目次
ポイントを整理すると
- 広辞苑(第七版)の語釈は、①人の知力を超越した現象 ②けなげ、殊勝。奇特。
- 明鏡国語辞典(第二版)は、①人知では考えられない不思議なこと ②けなげで感心なこと。殊勝。 ③すなおでおとなしいこと
- 「神妙な面持ち」は、②③のほう。かしこまって、おとなしくしている表情のことでした
「神妙」には、二つの顔がある
並べてみると、同じ言葉なのに、ずいぶん違う顔を持っていることが分かります。
- 不思議・霊妙の顔(①)……人知を超えたふしぎさ。やや古風な使い方です
- おとなしい・殊勝の顔(②③)……けなげ、すなお、かしこまっている
そして、いちばん分かりやすい例がこれ。「神妙にお縄につく」——時代劇でおなじみの言い方ですね。抵抗せず、おとなしく従うこと。この「神妙」が、まさに②③の意味です。こう並べると、「神妙な面持ち」がどんな顔なのか、すっと像が結びます。
面白いのは、私の勘違いも、まったくの的外れではなかったことです。「秘密を隠していそう」と感じたのは、たぶん①の”人知を超えた不思議さ”の気配を、どこかで拾っていたから。言葉そのものが持っている二面性に、引っかかっていたんですね。
現場からひとこと
ひとつの言葉に複数の意味があるとき、どれを指しているかを決めるのは、いつも文脈です。「神妙な面持ち」なら②③、「神妙なる調べ」のような言い方なら①。辞書は選択肢を並べてくれますが、選ぶのは、その文章の中にいる言葉自身。
だから校正では、辞書で意味を確かめたあと、必ず原稿に戻ります。「この文脈なら、どの意味だろう」と。辞書の中で完結させず、文章の中に置き直して考える——それをしないと、正しい知識のまま、間違った指摘をしてしまうことがあります。
言葉に二つの顔があるとき、決めるのは文脈です✍️
※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

