ゲラに「一つづつ」という表記を見つけて、手が止まりました。「づつ」だったかな、「ずつ」だったかな——書くときに迷ったことのある方も多いのではないでしょうか。辞書を引いてみたら、なかなか奥行きのある答えが待っていました。
目次
ポイントを整理すると
- 本則は「ずつ」。明鏡国語辞典(第二版)では「一つづつ」に△誤用の印がつき、「一つずつ」が本則と示されています
- ただし、同じ明鏡に「現代仮名遣いでは『づつ』も許容」とも書かれています。つまり、完全な誤りとは言い切れません
- 記者ハンドブック(第14版)の「ぢ」「じ」「づ」「ず」の使い分け用例集にも、「少しずつ」「一つずつ」と記載。報道・出版の現場では「ずつ」で統一します
「ぢ・づ」を使うのは、こんなとき
そもそも「ぢ・づ」を使うのは、大きく2つの場合だけです。ひとつは同じ音が続いて濁るとき——ちぢむ(縮む)、つづく(続く)、つづる(綴る)。もうひとつは二語が結びついて濁るとき——はなぢ(鼻血=はな+ち)、みかづき(三日月=みか+つき)、こづつみ(小包=こ+つつみ)。もとの言葉が、はっきり感じられるものたちです。
いっぽう、もとの語の意識が薄れたものは「じ・ず」で書くのが本則です。いなずま(稲妻)、きずな(絆)、さかずき(杯)、つまずく、うなずく——言われてみれば「妻」「綱」の面影はありますが、今はもう一語として感じられますよね。そして「ひとつずつ」も、この仲間です。
現場からひとこと
ここが、この言葉のいちばん面白いところです。「づつ」は許容なので、世の中では誤りとまでは言えません。でも出版や報道の現場では、記者ハンドブックなどの表記ルールで「ずつ」に統一するのが決まりごと。だから校正では、はっきり赤字を入れます。
ただしこの赤字は、「間違いを直す」のではなく「表記をそろえる」ためのもの。同じ赤ペンでも、意味が違うんです。この違いを分かっていないと、「誤りだから直した」と思い込んで、書き手に不必要な指摘をしてしまうかもしれません。ルールの中で直すのか、正誤として直すのか——そこを見分けるのも、校正者の目だと思っています。
本則は「ずつ」。迷ったら、こちらを選べば間違いありません✍️
※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

