「ライバルに遅れを取る」。よく見る言い方ですが、校正の現場でこの「遅れ」に、ふと手が止まります。同じ「おくれ」でも、ここは「後れ」——時間の”遅れ”とは、別の言葉なんです。今日は、まぎれやすい「おくれ」のお話です。
目次
ポイントを整理すると
- 競争や比較で「負ける・劣る」意味なら「後れを取る」。後ろに置いていかれる、というイメージです。例:ライバルに後れを取る
- 時間的に「遅刻する・遅延する」意味は「遅れ」。電車の遅れ、返事が遅れる、など。こちらは時間の話です
- 報道・校正の標準では、この慣用句は「後れを取る」。記者ハンドブック(第14版)にも「後れを取る」の記載があり、「遅れを取る」は載っていません
「遅れ」と「後れ」は、意味が違う
同じ「おくれ」でも、字によって意味が分かれます。「遅れ」は”時間”——電車が遅れる、締め切りに遅れる。「後れ」は”位置・優劣”——後ろに引き離される、負ける。だから「ライバルにおくれを取る」は、時間ではなく”負ける”の意味なので、「後れを取る」が本来の形なんです。
ではなぜ「遅れを取る」がこんなに増えたのか。おそらく、「遅れ」のほうが日常で見慣れた字だから。パソコンで「おくれ」と打つと、まず「遅れ」が出てきますよね。こうして、変換の流れで、そっと入れ替わってしまう。意味が通じてしまうだけに、気づかれにくい”すり替わり”です。
現場からひとこと
「遅れを取る」を見つけたとき、校正では「後れを取る、では?」と、根拠を添えて指摘します。「なんとなく違う気がする」ではなく、「競争で負ける意味なので”後れ”、記者ハンドブックにもそうあります」と、資料で示す。辞書だけでなく、報道の表記ルールブックまで確かめる——地味だけれど、この裏取りが、指摘の重みになります。
パソコンの変換にそのまま従わず、いちど「この”おくれ”は、時間かな、優劣かな」と立ち止まる。その小さなひと呼吸が、文章の精度を静かに支えています。
時間なら「遅れ」、負けるなら「後れ」。同じ音でも、字がちゃんと意味を持っています✍️
※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

