ゲラで、「靴」のクレジットを1行、消しました。文字は、一字も間違っていません。ブランド名も価格も、すべて合っています。それでも、消さなければなりませんでした。今回は、これまでとまったく違う種類の気づきです。
初校では、足元まで写っていた
モデルさんが洋服を着ている写真のページです。写真の下には、クレジットが並んでいます。クレジットとは、商品の名前や価格、ブランド名を書いた行のことです。
こうしたページでは、モデルさんが身につけているものは、服もアクセサリーもバッグも靴も、すべてクレジットに載せるのが基本です。初校の写真には、足元まで写っていました。クレジットにも「靴」の1行があります。ここまでは、何の問題もありません。
念校で、写真が変わった
念校は、校了の直前に、念のためもう一度行う校正です。この段階でも、写真は差し替わることがあります。まったく別のカットになることもあれば、大きさの調整だけということもあります。
今回は、念校で写真が膝までになっていました。靴は、もう写っていません。写っていないものは、クレジットに書けません。「靴」の1行は、消さなければならないのです。
文字は変わっていないのに、正しさが変わる
ここが、今回いちばん不思議だったところです。クレジットの文字は、初校から一字も動いていません。変わったのは写真のほうです。それだけで、正しかった1行が、正しくなくなりました。
消す理由が、文字の中にひとつもないんです。何度読み返しても、誤字もなく、事実の誤りもありません。答えは、写真の中にしかありませんでした。
しかも念校は、最終段階です。この時期はみんな、文字の細かいところに神経を集中させています。句読点、送り仮名、数字の全角と半角。そんなときに「写真に写っている範囲」まで見直すのは、意識していないと、するりと抜けます。
現場からひとこと
校正というと、誤字脱字を見つける仕事だと思われがちです。私自身、始める前はそう思っていました。
でも実際にやってみると、文字だけを見ていては見つからないものが、けっこうあります。今回のクレジットがまさにそれでした。文字が正しいことと、そこにあるべきことは、別のことだったんですね。
やっかいなのは、こういうものほど見落としやすいことです。答えが文字の外にあるとき、目は文字の中ばかり探してしまいます。だから決めました。写真が差し替わったら、クレジットは頭から照合し直す。決まりにしてしまえば、次からは意識しなくても手が動きます。
写っていないものは、書けない。当たり前のようで、いちばん抜けやすいところでした✍️
※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

