【校正の現場から】「贅沢な設え」?「贅沢な設い」? どちらも正解でした

「贅沢な設えで」と書くか、「贅沢な設いで」と書くか。どちらも見かけたことがあって、手が止まりました。送り仮名が一文字違うだけですが、どちらが正しいのでしょうか。

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ポイントを整理すると

  • どちらも誤りではありません。広辞苑(第七版)は「設え」を「『しつらい』①に同じ」としています。意味はどちらも「設けととのえること。飾りつけること」です
  • 二つあるのは、元の動詞が昔と今で違うから。昔の「しつらう」から生まれたのが「しつらい」、今の「しつらえる」から生まれたのが「しつらえ」です
  • 明鏡国語辞典(第二版)には「設える」はありますが、「しつらい」の見出しはありません。今の文章なら「設え」が一般的です

活用が変わって、形が二つ残った

手がかりは、広辞苑の「設える」の項にありました。「古くは四段活用」。昔は「しつらう」と活用する動詞で、その名詞の形が「しつらい」でした。やがて動詞が「しつらえる」と活用するようになり、名詞も「しつらえ」になった。古い形と新しい形が、両方とも残ったというわけです。

古い形の「しつらい」には、広辞苑にもう一つの意味が載っています。「室礼」と書いて、晴れの儀式の日に、寝殿の母屋や廂に調度を整えること。平安時代の暮らしにつながる言葉です。今でも、季節の行事に合わせて部屋を飾ることを「しつらい」と呼ぶことがあります。少し古典の香りのする言葉なんですね。

「贅沢な設え」を常用漢字表に合わせると

校正の目で見ると、もうひとつ気になるところがあります。「設」の常用漢字表の読みは「セツ」と「もうける」だけ。「しつらえる」は表にない読みで、明鏡も「設える」に表外の読みのマークを付けています。さらに「贅」は、常用漢字表にない字です。

つまり常用漢字表に合わせて書くなら、「贅沢な設え」は「ぜいたくなしつらえ」と、全部ひらがなになります。記者ハンドブックには「しつらえる」の項目がありませんでしたが、常用漢字表の読みに沿う媒体なら、こう書くことになるはずです。どこまで漢字で書くかは、「彷彿」の回と同じで、媒体の選ぶところです。

現場からひとこと

ゲラに「設い」とあっても、誤りではないので赤字にはしません。今の文章で読み手が引っかかりそうなら、「設え」を鉛筆で提案するくらいの強さだと思います。逆に、伝統行事や季節の飾りを語る文章なら、「しつらい」のほうがしっくりくることもあります。

送り仮名が一文字違うだけで、言葉の生きてきた時代が見えてくる。辞書の「古くは四段活用」の一行が、ずいぶん遠くまで連れていってくれました。

昔の「しつらい」、今の「しつらえ」。どちらも、部屋を美しく整える言葉です✍️

※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

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