【校正の現場から】「神業」?「神技」? 「わざ」のはじまりは、神さまだった

友だちとのメッセージで迷った「神業」と「神技」を、広辞苑と明鏡国語辞典で引き比べ、「かみわざ」は神業・「しんぎ」は神技と整理した校正の図解

友だちとのLINEで、「神業!」という言葉が届きました。返信しようと「かみわざ」と入力すると、変換の候補に「神業」と「神技」が並びました。あれ、どっちだろう? 辞書を引いてみました。

目次

辞書の見出しは「神業」

広辞苑の見出しは「かみわざ【神業】」。古くは「カムワザ」とも言ったそうです。「神のしわざ。かみごと。また、神の力でしかできないような、素晴らしい技術」とあり、用例は「まるで―だ」。もうひとつの意味として、「神に関する公事。神事(しんじ)」も載っていました。

明鏡国語辞典も「かみわざ【神業】」。「神でなくてはできないわざ。また、そのようにすぐれて超人的な技術」で、用例は「―の妙技」です。

どちらの辞書も、「かみわざ」の漢字は「神業」でした。

「神技」は「しんぎ」だった

では、「神技」はどこにあるのでしょう。「しんぎ」で引くと、載っていました。

広辞苑は「しんぎ【神技】」で、「神の行う技。人間にはとても出来そうにないすぐれたわざ」。用例は「―に近い」です。明鏡は「人間わざとは思えないような、きわめてすぐれたわざ。超人的な技術」。

どちらの説明も、最後に「かみわざ」と書いてあります。意味はほとんど同じ。でも、読み方がちがう、別の言葉なんです。広辞苑の「かみわざ」の説明にも「神技」と書かれていて、2つの言葉がおたがいを案内しあっていました。

  • かみわざ → 神業
  • しんぎ → 神技

新聞の書き方の決まりを集めた記者ハンドブックも、「かみわざ(神技)→神業」。「かみわざ」と読むなら「神業」と書く、とはっきり示されていました。

「業」と「技」のちがい

「わざ」そのものも、広辞苑で引いてみました。見出しは「わざ【業・技】」。意味が9つも並んでいて、1番目は「神意のこめられた行事。深い意味のある行為」。ほかにも「すること。しわざ。おこない」「しごと。職業」「しかた。方法・技術。芸」「武道・相撲などで、相手に仕掛ける一定の型の動作」などが挙がっています。

そして最後に、こう書いてありました。「『技』は4と9に使い、それ以外は『業』を使うのが普通」。4は「方法・技術。芸」、9は「武道・相撲などの型の動作」です。

明鏡国語辞典は、「わざ【技】」として意味を2つ挙げていました。「ある物事を行うために必要な技術・技能」(「―をみがく」)と、「柔道・相撲などの格闘技で、勝敗を決めるために仕掛ける攻撃の型」(「―が決まる」)。広辞苑の4番と9番と、ちょうど同じところです。

つまり、技術や型には「技」、それ以外の行い・しわざ・仕事には「業」。「技を磨く」「柔道の技」は「技」、「仕業」「職業」は「業」です。

「わざ」のはじまりは、神さまだった

広辞苑は、ひとつの言葉の意味を、語源に近いものから順に並べる辞書だと言われています。今の意味を先に書く辞書もありますが、広辞苑はその逆です。だから「わざ」の1番目に挙がっている意味は、もとの意味に近いと考えられます。

その1番目が、「神意のこめられた行事。深い意味のある行為」。神さまの心がこめられた行い、ということです。そのあとに「すること。しわざ」「しごと」「方法・技術」と続きます。並び順を見ると、神さまの行事から、人の行い、仕事、技術へと、意味が広がっていったように見えます。

「神業」は「神のしわざ」。「わざ」のもとの意味に近い言葉です。だから、技術だけを表す「技」ではなく、もとの広い意味を受けつぐ「業」で書くんですね。

ただ、すごい技術をほめるときは、「技」のほうがしっくりくる気もします。変換の候補に「神技」が出てくるのは、そう感じて使う人が多いからかもしれません。

「人間業」も「業」

明鏡の「神業」には、「人間業(にんげんわざ)」という言葉も案内されていました。「人間の能力でできること」。「―とは思えない技術」のように、多くは打ち消しの言葉といっしょに使って、それがきわめて優れた能力であることを表すそうです。

「神業」と「人間業」。並べてみると、どちらも「業」でした。

現場からひとこと

「神技」と書いて「かみわざ」と読むのは、辞書にはない組み合わせです。もしゲラで「神技」に「かみわざ」とふりがながついていたら、鉛筆で「神業でしょうか」と確かめることになりそうです。

変換の候補は、どれも正しいような顔をして並びます。迷ったら、まず読み方を決める。読み方が決まれば、漢字も決まります。

LINEの返信は、もちろん「神業」にしました✍️

※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

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