ゲラに、こんな一文がありました。
「紅葉に彩られた庭は、和の趣きにあふれています。」
引っかかったのは、「趣き」でした。「趣」に「き」を送るのは、送り仮名の決まりに合っているのかな? よく見かける書き方ですが、確かめてみました。
名詞には、送り仮名を付けないのが原則
「書く」は、「書かない」「書きます」「書けば」と、終わりの音が変わります。この変わるところをひらがなで書いたものが、送り仮名です(国の「送り仮名の付け方」通則1)。いっぽう、名詞は形が変わりません。「月」や「花」は、どこで使っても「月」「花」のままです。だから通則3では、名詞には送り仮名を付けないのが原則になっています。

ただし、例外があります。原則には合わないけれど、そう書く習慣があると認められた言葉です。最後の音を送る名詞として、次の18語が決まっています。辺り・哀れ・勢い・幾ら・後ろ・傍ら・幸い・幸せ・全て・互い・便り・半ば・情け・斜め・独り・誉れ・自ら・災い。この中に、「趣」はありません。
辞書もハンドブックも「趣」
広辞苑(第七版)も明鏡国語辞典(第二版)も、見出しは「趣」です。記者ハンドブック(第14版)にも、「趣のある庭」と載っていました。国の基準、辞書2冊、記者ハンドブックが、そろって「趣」です。
「趣き」と書きたくなる理由
それでも「趣き」と書かれやすいのは、「勢い」「幸い」と同じ仲間に見えるからだと思います。どれも形のない、気配のようなものを表す名詞です。並べてみると、「趣」だけ送らないほうが不自然に感じるかもしれません。
もうひとつは、動詞から生まれた名詞に見えることです。「動き」「恐れ」のように、動詞から来た名詞は、元の動詞の送り仮名を残します(通則4)。「おもむき」も「おもむく」から来た言葉に思えますよね。ところが常用漢字表で、「趣」の読みは「シュ」「おもむき」だけ。動詞の「おもむく」は、別の字の「赴く」に割り当てられています。「趣」には、送り仮名を受け継ぐ元の動詞がないんです。
現場からひとこと
「設え」と「設い」はどちらも正解でしたが、今回はちがいます。国の基準、辞書2冊、記者ハンドブックがそろって「趣」。「送り仮名の付け方」に沿って書く媒体なら、「き」をトルでよいところです。
送り仮名で迷ったときは、「名詞は送らない」を軸にして、例外だけを覚えるのが近道だと感じました。最後の音を送る名詞の例外は、通則3では18語だけ。一覧が短いぶん、そこに入っていない言葉はすぐに見分けられます。
名詞は送らないのが原則。「趣」は例外ではないので、「き」は送りません✍️
※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

