「声を荒げる」——怒って声を大きくする、あの言い方です。これ、「あらげる」と読むのか「あららげる」と読むのか、そして漢字はどう書くのか、迷ったことはありませんか?校正の現場でこの言葉に出会って辞書を引いたら、なかなか奥が深かったので、今日はそのお話です。
ポイントを整理すると
- 本来の形は「荒らげる(あららげる)」。「ら」が二つで、あ・ら・ら・げ・る と読みます
- 「荒げる(あらげる)」は、その短縮形。「ら」が一つに縮まった形で、今ではこちらのほうがよく使われています
- どちらも辞書に載っていて、「荒げる」も誤りではありません。ただ、きちんとした文章で”本来の形”を選ぶなら「荒らげる」です
「表記」と「読み」が絡まる言葉
ややこしいのは、これが”書き方違い”ではなく“読み違い”だからです。「荒らげる」はあららげる、「荒げる」はあらげる。「ら」の数が、そのまま読みの違いになっています。
もうひとつ、送り仮名の落とし穴も。「あららげる」と”ら”が二回鳴るので、つい「荒ららげる」と書きたくなりますが、これは誤り。「荒」がすでに”あら”を担っているので、送り仮名は「らげる」で足りるんです。だから「荒らげる」と書いて、ちゃんと”あららげる”と読めます(明鏡国語辞典・第二版も「荒ららげるとはしない」と注意しています)。
おもしろいのは、辞書のほうも折り合いをつけていること。広辞苑(第七版)も明鏡(第二版)も、見出しは「荒げる(あらげる)」で立てていて、「本来はあららげる」「アララゲルの約」と、その項目の中で説明しています。本来は「荒らげる」なのに、辞書自身が見出しを「荒げる」にしている——それだけ「荒げる」が、いまの標準になっているということなんですね。
現場からひとこと
この言葉は、「明るみになる」のように”誤用”と切り捨てられるタイプではありません。「荒げる」もちゃんと辞書にある。だから校正でも、「荒げる」を赤で消すのではなく、「本来は”荒らげる”ですが、どうされますか?」と、選択肢を添えて指摘するのがちょうどいい距離感です。
正しいか間違いか、の二択じゃない言葉って、けっこうあります。そのグラデーションを、辞書を引きながら見極めて、書き手にそっと手渡す。地味だけれど、こういう一語との向き合いが、校正のいちばん奥にある楽しさかもしれません。
白か黒かで決まらない言葉こそ、辞書に戻って、ていねいに✍️
※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

