【校正の現場から】「焦点を当てる」って正しい? 焦点は”絞る”もの

「この問題に焦点を当てる」。よく見る言い方ですよね。私も長いあいだ、なんとも思わず使っていました。でも校正の現場に入ってから、この「焦点を当てる」に、ふと手が止まるようになったんです。今日は、そんな一言のお話です。

目次

ポイントを整理すると

  • 焦点は「絞る」(または「合わせる」)。焦点は”中心となる一点”のことなので、そこに問題や関心を集めていくイメージです。広辞苑(第七版)も、焦点の用例に「焦点を絞る」を挙げています
  • 光やスポットライトは「当てる」。「当てる」は、光や照明をある場所・物に向けること。だから「スポットライトを当てる」が自然です
  • 「焦点を当てる」は、この二つが混ざった形。校正では「焦点を絞る、では?」と、指摘の対象になりやすい言葉です

なぜ「焦点を当てる」で手が止まるのか

焦点は「点」です。点は、当てるものではなく、絞ったり合わせたりするもの。いっぽう「当てる」は、もともと光の言葉。「スポットライトを当てる」「照明を当てる」——この”当てる”が、いつのまにか焦点のほうへ引っ越してきて、「焦点を当てる」という言い方が生まれたと考えられます。二つの正しい表現が、混ざったんですね。

ただ、正直に言うと——「焦点を当てる」は今やとても広く使われていて、新聞や論文でも見かけます。だから「これは誤りです」と言い切るのは、少し行きすぎかもしれません。私は赤字で消してしまうのではなく、「焦点を絞る、のほうが安心では?」と指摘の形にして、最終的な判断は書き手や編集にゆだねます。正しさを押しつけるのではなく、選択肢をそっと差し出す。それが校正の距離感だと思っています。

ちなみに——舞台照明の世界では、スポットライトの光の輪を狭くすることを、本当に「絞る」と言うそうです。でもそれは専門の操作の話で、ここでの”言葉の相性”とは別の話。念のため添えておきます。

現場からひとこと

「焦点を当てる」も「焦点を絞る」も、伝えたいことは同じ。だからこそ、こういう言葉は見過ごされやすいんです。意味が通じてしまうから、混ざっていることに、なかなか気づけない。

校正って、意味が通じる文章の中から、こういう”ちょっとした混ざり”を見つけて、そっと指摘する仕事。書き手の言葉が、いちばん伝わる形になるように。だから私は今日も、当たり前に読み流せる一文の前で、ちょっと立ち止まります。

意味が通じるからこそ、見逃されやすい。だから、言葉は一つずつ確かめたい✍️

※事例は実際の経験をもとに再構成した架空の例です。

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